窒素分子の発光スペクトル
窒素を
マイクロ波 で放電させてプラズマを作ると、電子エネルギーの平均値が小さいので、見た目的には窒素分子のみのシャープな発光スペクトルを得ることができます。
図1にその例を示します。
図1:マイクロ波で励起した窒素プラズマのスペクトル(撮影協力-埼玉工業大学)
水素原子の発光スペクトル と比較し窒素分子の励起順位は少し複雑です。
N
2分子の電子軌道は複数ありますが、図1 で観測されているのは図2 にあるような励起準位です。
図2 の一番下が基底状態、上に向かうほどエネルギーの高い準位になります。これらの準位は電子の振動により離散的に複数の準位を持ちます。
準位から他の準位へ電子が移動するときは、hνの電磁波 (光) が放出されますので、このスペクトルは複数あることになります。
たとえば、図2の右端中央の B
3Πg の準位から、A
3Σ
u+への遷移は、First positive (図2では1st pos.と表記)
と呼ばれていますが、観測結果として参考文献1においては合計 48本のスペクトルが示されています。
測定結果をみると、ここのスペクトル群 (First positive)は 550~800 mm付近に観測されています。
図1では複数のスペクトルが観測されていることが分かります。
図2:N2 分子の一部の励起準位 (文献1より抜粋)
もう一つ観測結果で観測されているスペクトル群は、300~400 nm付近のものです。
これは Second positive と呼ばれるもので、図2では 2nd pos.と表記され、1st pos.の直上に位置し、幅も広いことからこの発光は First positiveより短い波長になり、
結果として 300~400 nmに観測されます。これらのことから、2nd pos./1st pos.で比をとれば、この値が高いほど 高い励起状態となっていることが予想できます。
厳密には様々な条件や仮定が必要であろうと思われますので、一般的な話としてご理解下さい。
以上のような点から、この2つのスペクトル比でこの 2つのスペクトル比で、プラズマのおおよその励起状態を推定することは可能であり、
波長 300~400 nm付近のスペクトル群は大きいほど高い励起にあると推論できます。
窒素原子からのスペクトルについて
原子からのスペクトルは文献 2に示されますが、汎用光ファイバー式といった感度の低い分光器で観測されるのは、INTENSITY SPK.の値が大きいものに限られます。
これは対数表記になっていますので、値が 1つ増加すると 10倍になります。また、分子スペクトルと異なり、単峰の幅の狭い鋭いピークになります。
今回のデータからは、原子スペクトルは観測されていないと考えて良いと思われます。
一般に窒素が解離 (N2 → N + N) するためには、解離エネルギー (9.1eV) とともに、ガスが希薄であることが必要になります。
窒素の電離エネルギーは 14.53eV であり、プラズマが発生していることから、電子のエネルギーが 14eV を超えていることは確実ですので、解離に必要なエネルギーがなかったわけではありません。
窒素の解離が分光的には観測できないことを意味していると考えた方が良さそうです。もっとも、今回は高い気圧でのプラズマ発生を観測していますので、乖離の確率が小さく、このことが窒素原子からのスペクトルが観測されなかった理由であると考えられます。
原子からの発光スペクトルについては プラスマ発光分光 でも取り上げています。ぜひご参照下さい。
- R.W.B Pearse,A.G.Gaydon “The identification of molecular spectra”, Chapman and Hall Ltd
分子からのスペクトルが網羅されているデータブックです。
この本の入手については、ブログ [技術の伝承 分子の発光スペクトル] に記載しています。
- M.I.T WAVELENGTH TABLES Vol.2 Wavelength by Element. MIT Pres
謝辞
窒素スペクトルの測定には、埼玉工業大学様にご協力をいただきました。